2007/10/06

高級車とは

車にことのほか思い入れが強かった自分はロンドンに来て驚いたことがある。英国には車を所有するのにガレージや保管場所を証明する必要が無い事である。その為夜になると路上のいたるところに(シングルイエロー、黄色の単線区域)には駐車した車で一杯になる。

昼間は駐車違反となるこの様なシングルイエローの道路も夜6時半を過ぎるとほとんどの場所で問題なく駐車可能である事も驚きだった。日本ならば昼間であろうと夜であろうと駐車違反の場所に車を留めれば何時でもレッカーのお世話になることだろう。さすがにロンドンでもダブルイエロー(黄色の二重線等)は厳しく何時でも取締りの対象となるが。

そんなことからロンドン中心地には多くの高級車が路上駐車をしているのを見たときには驚いた。今小生の道場があるメイフェアー地区はロンドン中心地でも一際高級車が多い。70年代には100メートルを歩く間にロールスやベントレー等の高級車が何台も留まっている光景を見かけた。このごろではSクラスのメルセデスやフェラーリも良く見る。

しかし本当の意味でイギリス人の彼らが高級車と認める車はロールス ロイスやベントレー アストン マーティン等のように一つ一つクラフツマン(熟練工)によって手作業で作られた車であることが説明を受けて分かった。この様な高級車は皮シートやウォールナッツのダッシュボードばかりでなく車のボディーも手作業で造られている。

ドイツ製高級車がウイング(フェンダー)からドアまでビシッとチリの合ったラインで極められているのに対してふっくらとしたラインでドアも緩やかなカーブを熟練工の手作業だけで打ち出したロールスやアストンの車体は日の光も時として柔らかな反射となる。チリの合わせ方などはドイツ車や日本車には及ばないが手で打ち出したシェイプはなんとも言えない高級感をかもし出す。

70年代まで作られたロールス ロイスのコーニッシュやアストンDB6くらいまでの英国製高級車には色濃くこの様な熟練工の技が見られた。残念ながら今日ではこの様な車を見かけることがなくなってしまったが、プレスによる何万台でも同じ形に型押しされた大量生産車が今では高級車の部類になってしまった事は少々寂しくもある。

もともと車はすべて高級車であった。フォードによる量産車の生産が車社会に革命を起こしたことは言うまでもないが、そのお陰で世界中で普通に誰でも車を所有することが出来るようになった。そういう意味では車における産業革命も感謝すべき事なのだろう。アメリカでT型フォードが成功する以前の車と言えば内燃機関のエンジンにコーチビルダーと呼ばれる馬車を作る熟練工に車体を作らせていたのだから、一般の庶民に買えるわけがなかった事は容易に想像がつく。

1920年代、30年代の車はどれも高級車だったことは言うまでもない。 ブガッティー ロワイヤル、イスパノ スイザ、昭和天皇が3台所有されたグロッサー メルセデス、どのクルマをとっても一般人が買える車ではなかった。

では現代の高級車はどうか? フェラーリ、ポルシェ、は言うに及ばずメルセデスやBMWそして日本製のレクサスまで高級車の範囲は広くなったがクラフツマン(熟練工)の技は残念ながら必要なくなってしまった。

マイバッハ(5200万円)やブガッティ ヴェイロン(1億7000万円)そして最近売り出されたロールスのファントムドロップヘッド クーペ(5200万円)等は現在の超高級車だが、さすがに70年代とは異なり、これまでのところ夜中の路上駐車でお目に掛かったことは無い 。

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