ほとんどの場合は経済的な結び付きが最初であろう。日本経済の発展と共にその優れた工業製品が世界中で売られる事と相まって人の交流も当然出来てくる。そんな中から色々な文化的交流事業も出てくるのだと思う。
自分はヨーロッパ以外にも少林寺拳法指導のため途上国も訪れた事があるが、その様な国の場合にはどうしても文化的交流は経済同様、先進国に比べて日本との関係も薄くなるのは確かである。日本からするとアフリカ諸国はやはり地理上の距離以上に遠い存在である。
しかしながらその様な国の国民が少林寺拳法に興味が無いのか?と言えばそんなことは無い。アフリカの国からは今でも指導者を送って欲しいという要請がWSKO本部ばかりでなく自分のもとにも何度も寄せられる。指導者としては甚だ心苦しい事ではあるが多くの場合これらの要請にはこたえられない。先ず初めに問題になる事はこれら途上国に行こうとする指導者が居ない事である。
主な理由は色々有るが経済的な自立が難しい事に加え、環境、衛生、政治といった少林寺拳法指導以前のこれらの問題をどう乗り越えられるかという事である。これらの問題は個人のレベルでは限界がある為なかなか根本的な問題解決とはならないのが現実である。
何もアフリカやアジアの途上国ばかりでなくヨーロッパの国からもこの様な要請は多い。これまで旧共産圏であった国々からの問い合わせや、それらの国がEUに加盟するようになりより現実的な要請が来るようになった。
ここでも問題は一筋縄では解決しない。先ず指導者の数がヨーロッパにおいても決定的に少ない。そしてそれら旧共産圏の国々は英国といえども結びつきは日本や他のヨーロッパ諸国とは比べ物にならないくらい小さいからである。
そんな中、現在小生のメイフェアー支部に定期的に練習に来るチェコ人の拳士が居る。初めメールを貰った時は又いつものように『指導に来てくれ』という要請かと思い事情を説明しWSKO本部を紹介した。本部事務局からは『現在指導員を送る事が出来ないので近隣の国の支部に登録して練習しなさい』という説明がなされた。しかしその後再度小生に連絡が入り、『その様な事情でロンドンに通わせて欲しい』と言う。
通わせて欲しいといわれても『チェコとロンドンは遠いので隣国のドイツかフィンランドの方がより近いのではないか』と説明したが『どうしてもロンドンに通いたい』と言うではないか。まあそうは言っても何処まで続けられるかと半信半疑ではあったがともかく入門を許可した。その後3ヶ月に一度の割合で3日間続けて通うようになり、時には期間が半年位開く場合も有るがおおむねこのペースで1年半以上続いている。
現在の恵まれた日本の環境からすれば『なぜそこまでして少林寺拳法を?』と疑問を持たれるかも知れない。このチェコの拳士に限って言えば本人は警察官で別に生活に困っているわけではない。随分古い英文の『少林寺拳法その思想と技法』をコピーしたものを大切に持っている。彼の言葉を借りれば『素晴らしい教えと技術を是非チェコで広めたい』という事らしい。そんな熱い思いに打たれて練習を許可したわけであるが、少しでも早く上達させてやりたいと思うと同時に、言葉の壁が高いこの拳士に如何に少林寺拳法の本質を伝えられるかと頭を悩ませている。
熱心なだけではなく、以前空手をやっていたらしく技術の習得も飲み込みが非常に早い。普通の拳士が何ヶ月も掛かる技を来る都度に上達しているのを見ると、飛行機で遠くから通ってくる熱意はこんなところにも差が出るものかなと感じさせられる。 本人がいくら才能が有っても少林寺拳法の指導者にそれ程簡単になれるわけではない。こんな時願わくば誰か情熱のある日本の指導者がこのような国に出向いて指導してくれないものかと思ってしまう。
世界はまだまだ広い。日本の若い有段者の人達には海外に目を向けて世界に飛び出して欲しい。そんな中で日本の素晴らしさも、そして又変えなければいけない事も見えてくると思うのだが。