2010/02/28

聴力のおとろえ

人は加齢により様々なものに変化が生ずる。体力の変化や視力の低下は勿論のこと聴力にも衰えは確実にやってくる。 勿論これは人間ばかりではなく、全ての生あるものに共通の変化である。仏教的に言えば生あるものに限らず、形あるものは全て変化する(色即是空)と言う事なのであろう。

年齢が若いときには聞こえた高音域の音が、年を取るにしたがって聞こえにくくなる事は、オーディオ ファイルの世界ではよく知られている。しかしながら観念的にその様な事を理解していても、普段聞いているスピーカーからの音が、ある日突然に高域が聞こえなくなる訳ではないので自身では中々気が付きにくい事も確かである。

以前この欄でiPodを良い音だと聞いている若い人達に、『良い音を聞いて、耳も鍛えた方が良い!』等と不遜なことを言った事を記憶しているが、それは今でもそうだと信じている。良い音とそうでない音の区別が付かない様な聞き方では、耳を鍛える事は出来ないと思うからである。

自分達が学生だった頃には街中にジャズ喫茶や、クラッシック音楽だけを聞かせる喫茶店が結構あった。その様な店では普段中々一般の人が買えない高価格のステレオ装置(ハイエンド機)で音楽を聴くことが出来た。 

ジャズばかり聴いていた自分は数多くの有名店と言われるジャズ喫茶に出かけ聞き回った事がある。その様な経験が同じミュージシャンの音でも随分異なった印象を受けた記憶が有る。 どこの喫茶店のマスターも自分の処の音が最高だ(傍目にはそう見えた)と信じてお客に聞かせている訳であるから、一般の家で聞く音とは一味も二味も違った音を聞かせてくれた。

ひるがえって最近ではこの様な喫茶店はビジネスの対象とはなりにくいのであろうか、多くのジャズ喫茶等は姿を消してしまった。その影響もあってか若者が音を純粋に聞きかじり、比較できる環境が減ってきてしまった事は非常に残念だと思う。 

iPod等と言う便利で比較的音質も良い機材が発売され、若者は元より小生のように還暦を過ぎたオヤジ層までが、その便利さから買い求める時代であるから、でかくて持ち運びの出来ない大きなステレオ装置など殆んどの人からは忘れ去られた遺物の様な存在になってしまった。

しかしながらその昔聞き比べたジャズ喫茶の音を思い起こしながら、少しでも生の音に近い音を出したいとスピーカーやアンプ、CDデッキ等をとっかえひっかえしたり、はたまたスピーカー コードからアンプの接続ケーブルに至るまで、良い音が出ないか?と挑戦する事などiPodだけを音源とする人には理解できない事なのかも知れない。

音の中でも特に低音域の再生には直径の大きなスピーカー(ウーファー)が必要になる。そしてその様なウーファーを入れるエンクロージャー(箱)も当然の事ながら大きくなる事は避けられない。小さいスピーカーでも良い音がするスピーカーも確かにある。しかしそもそも良い音等というものは怪しいものである事も事実であろう。何故ならば本来出せるはずの無い(物理的に)低域の音を、それらしく聞かせられると言う事は、いかにも現代のニーズに合っているとも言える訳だ。

iPodから出る音をイヤフォンを耳に突っ込み聞いている音に比べれば、小さなスピーカーの音でも結構新鮮に良く聞こえたりするものである。その音が現実の生の音と比較すると、とても聞けないような代物であっても、中々聞き分ける事は難しい。

最近ではデジタル放送が始まって、TVもプラズマやLCD(液晶)が大画面で高画質(HDハイデフニション)が一般的になってきた。それと平行してサラウンドシステムと言い5.1cなどと呼ばれる小型スピーカーをTVの両端や部屋の周りに置き、TVの後ろにサブウーファーを置いて臨場感を出せるようにしたシステムがある。初め電気の量販店でそのデモ(音)を聞いた時、酷い音だなと感じた。しかし不思議なもので映像と同時に聞くと迫力のある音に聞こえるし、臨場感は確かに普通のTVに内蔵されたスピーカーとは比較にならないくらい迫力がある。

これが音楽番組になるとトテモ気持ちが悪い音になってしまう。サブウーファーの音には誇張された違和感を覚えるし、小さなスピーカーから出る高域も金属的なデジタル音が強すぎてライブの音とは開きがある。映像を同時に見ると違和感は映像に、目(集中)を奪われそれ程酷く感じないものの、目を閉じると途端に違和感を感じる事からも、人の感覚のいい加減さが分かると言うものではないか。

スピーカーから出る低音域は実に難しく、それがスピーカー メーカーの技の見せどころなのであろう。いくらすごい技術を持っていても物理特性だけはどうにもならない。サラウンドの小さなスピーカーからは、どれ程お金を掛けても38cmウーファーの低域は出すことが出来ないのは明白である。サブウーファーも所詮それらしく音作りをしてはあるが、コストなどの制限もあり自然な音が出た物に出会った事が無い。

低域は年をとっても比較的聞こえるが、問題は高域である。先日音域特性を測るCDを手に入れたので実験してみた。人間の耳で聞こえる高域の限界が2万ヘルツであるらしい。よって普通のCD録音では高域が2万までしか入っていないらしい。SACD(スーパーオーディオCD)にはそれ以上まで入っているとの事だが、それを聞き分けられる人がそれ程いるとも思えない。
確かに人は耳ばかりでなく身体全体を使って、骨等でも音を聞いている事は知っているが、それでも実際には耳の役割が主なことは事実であろう。

自分の場合には13000khあたりから聞こえなくなった。何のことは無い2万もとても行かないではないか。若い人こそ高域は聞こえると聞いたので20代の息子に実験してみた。結果27歳の息子は18000ヘルツ辺りまで聞こえるらしい、悔しいが現実を受け止めるしかない。

加齢による聴力の衰えは誰にでも来るものだとあきらめて、出来るだけ自分が楽しめる音楽を最良の音で楽しむことにしよう。若者に耳を鍛えた方が良いのでは、と言うアドバイスは今でも信じてはいるが。

今度はもっと若い孫で実験してみようと考えている、10歳以下の子供ではどこまで聞こえるのか興味がある。しかしその様な子供では感じ取れない音楽の面白さ(音域だけではない深さ等)がオーディオ ファイルの楽しみの一つかも知れない、どうかな?