2019/09/30

鈎手の誤解

少林寺拳法の柔法を習う時、最初に教えられるのが『鈎手守法』である。5指を張って肘を脇に付ける事で、態勢が安定して相手から崩される事なく技を掛けられると言う理論である。これは多くの指導者が同じ様な理論で技を指導していると想像する。

しかし残念ながら鈎手守法ですべてが解決するわけではない!鈎手はあくまでも技の過程の一部である事は言うまでもない。問題は最初に習った『5指を張って、肘を脇に付ける』と言う事を過剰に意識する事で、その後の技に対する動作(練習)が誤った結果を招く事を何度か見ている。

鈎手とは腕を固める事が目的ではない、逆に固める事によりその後の動きが相手に悟られ技の流れが途切れてしまう事になる。合気道などの他武道には、鈎手で自身の体制が崩されるのを守ると言う概念は無い。この様に考えると鈎手は初期動作として5指を張り、肘を脇に付ける動作ではあるが、一瞬の動きであり1秒も2秒も鈎手を続ける(固まる)と言う事では無い。

鈎手はセンサー(感知装置)である。最初に手首等をつかまれた時、崩されないように守る事ばかりに意識が行くと固まってしまう。 これでは相手の動きが分かるはずもない。センサーと考えれば相手の意識(目的)も感知しやすくなるはずである。相手との貴重な接点と捉えれば鈎手の意味も少しは理解できると思う。

ではどの様な鈎手が有効なのか? 相手に捕られた手首は瞬時に5指を張り鈎手の態勢に入るが、ほとんど同時に脱力する事で相手の目的や力の加わり方が感触として分かるようになる。また脱力で相手にも自身のその後の力の入る方向(目的)を悟られる事を防ぐことが出来る。相手が気付いた時には技は決まっていることになる。

(スイス講習会での記録)

2019/09/18

日本と英国の共通点

日本と英国はどの様な共通点があるのか?
両国とも海洋国家(島国)である。大陸は間近な距離ではあっても繋がっては居ない。

明治維新後の日本は西欧の国々に多くの事を学び取り入れてきた歴史がある。

その様な中で面白い現象が有る。日本と英国は共に自国語で外国の地名や人名を語る。日本では中国の事を『チュウゴク』と呼ぶ。北京は『ペキン』習近平は『シュウキンペイ』現在世界が注目している香港行政府の長は林鄭 月娥『リンテイゲツガ』つまり漢字文化の中国は地名、人名等も日本読みが普通である。

イギリスでは漢字文化の国をオリジナルに近い発音で呼ぶことが普通である。中国は『チャイナ』北京は『ベイジン』そして習近平は『シージンピン』林鄭 月娥は『キャリー・ラム』と言う具合である。

逆にアルファベット文化の国に対して日本と英国では上記と逆になる。つまり日本がオーストリアの首都を言う時『ウィーン』、我々が指導者講習会をやった国は『キプロス』、チェコの首都は『プラハ』、ベルギーの首都は『ブリュッセル』と言うはずである。

ではイギリス人はオーストリアの首都を『ヴィエナ』、キプロスは『サイプロス』、チェコの首都は『プラグ』そしてベルギーの首都は『ブラッセル』と言う具合で若干ではあるが違っている。初めて聞いた時『ヴィエナ』が『ウィーン』だとは想像すらつかなかった。

日本はアルファベットの文化圏ではオリジナルに近い呼び方をとり、逆に漢字文化圏の地名や人名では、他国の人には通用しない意味不明な日本語読みになる。英国も漢字文化の国はオリジナル・アクセントに近く、逆にアルファベットが使われる場合には外国人には分かりづらい呼び方と言える。

それ以外の言語における特徴は分からないが、ともに島国の日本と英国は面白い共通点と言えるのかもしれない。

次の呼び方は何だか分かるかな?

1. コジェット  Courgette
2. ヴィークル  Vehicle
3. フローレンス Florence
4. ヴォラディヴォストック Vladivostok
5. ズーリック  Zurich

2019/09/09

少林寺拳法の『技』過去と現在

少林寺拳法で初期の科目表にはあったがある時期から外れた技がいくつかある。その一つに二人抜きと言う護身の技術としては有用な技を見てみたい。( BSKFの初段科目には含まれて居る)

この二人抜きと言う技は、複数の抜き技を組み合わせた総称である。『諸手突抜』や『三角抜』又は『諸手巻抜』『諸手輪抜』と言う技等で如何にうまく相手の力を利用して複数の抜き技を使い、最後は剛法で決める技とも言える。

この様な護身術としては非常に有効な、また現実味のある複数の敵に対しての対処法としての抜き技なのだが、現在の演武競技を対象とした少林寺拳法の練習では多くの指導者にとって関心の薄い技なのかもしれない。

武道としての技術を考えてみれば護身の意味するところは非常に重要だと思う。我々が教えられてきた少林寺拳法を修練する事によって得られる三徳『護身練胆、精神修養、健康増進』を考える時、護身の技術が忘れ去られて良いと言う事にはならないと思う。

その様な理由から今回は二人抜きを選んでみた。順序として技の組み合わせで使われる諸手突抜や三角抜そして諸手輪抜、巻抜を理解しておく必要がある。

最初の足捌きは両側から引っ張る二人の相手に対して、より力の強い方に寄る事。これはそれ程難しくはない。(力の弱い方に寄る事は難しいが。)

何故ならば合わせて2人の力で弱い相手を引っ張る形になる。足捌きと同時に寄った側の腕が鈎手になる事も重要な要件である。

次に素早く鈎手を解き(腕を伸ばし)逆側の相手に諸手突抜又は三角抜で抜くことが可能となる。最初の鈎手で自由に動ける範囲(腕が伸びる距離)を利用する事が可能となるからである。(詳しい動作は下の動画を参考にしてほしい)

最初に突抜又は三角抜で抜いた手で金的打ちを加え、もう一方の相手に寄足でより、諸手巻抜をして連攻撃を掛けると言う一連の動作である。確かに組演武ではやる事も無い技なのかもしれない(?)が、武の要諦としては面白い技では無いかと考える。

(サイプロス指導者講習会の映像から)